物語の大きな転換点となったのが、ヒロインの一人である小松奈々(ハチ)との関係だ。一見すると、プレイボーイであるタクミが気まぐれに手を差し伸べたように思える。だが、彼女の妊娠が発覚した際に見せた即座の「結婚宣言」は、読者を激しく困惑させた。
これは純粋な愛情だったのか、それともノブからハチを奪い去るための独占欲だったのか。王道の恋愛ドラマであれば祝福されるべき局面だが、矢沢あいが描いたのはあまりにもリアルな現実の生々しさだ。タクミはハチを安全な箱庭に囲い込むことで保護すると同時に、彼女の自由を奪った。互いに欠けたピースを埋め合うような2人の愛憎劇は、従来の少女漫画の枠組みを超えたドキュメンタリーのような緊迫感を放っている。