2015年にPHP研究所から単行本として刊行され、2026年4月にPHP文庫として復刊された自著『赤と青のガウン オックスフォード留学記』は、出版界でも異例のロングセラーを記録しています。SNS上では「皇族のイメージが180度変わった」「抱腹絶倒しながら最後は涙した」と熱狂的な感想が相次ぎました。なぜこれほどまでに読者の心を掴んだのでしょうか。
最大の魅力は、「皇族」というベールを一枚脱ぎ捨てた、赤裸々でユーモアあふれる人間味にあります。書名にある「赤と青」とは、オックスフォード大学の学生が着る黒い共通ガウンに対し、博士号(D.Phil.)取得者のみが着用を許される緋色(赤)と青の豪奢なガウンを指します。そのガウンを手にするまでの道のりは、決して平坦な特権のレールではありませんでした。
側衛(皇宮護衛官)がつかない異国の地で、生まれて初めて一人暮らしを経験した彬子女王は、銀行口座を開設するだけで悪戦苦闘し、スーパーのレジで小銭の支払いにまごつき、自炊やアイロンがけに失敗して落ち込む日々を送ります。パトカーに先導されて大学に向かう羽目になった珍事や、冬の英国で暖房が壊れて凍えそうになった夜など、高貴な身位とは対照的な日常のドタバタ劇が軽妙な語り口で綴られています。
一方で、研究者としての描写は壮絶を極めます。恩師であるオリバー・インピー教授の急逝という悲劇を乗り越え、何万枚もの美術資料カードをめくり、徹夜で論文を書き上げる姿は、一人の誇り高き学徒そのものです。読者が惹きつけられたのは、「皇族だから成功した」のではなく、「血のにじむ努力の果てに自力で博士号を勝ち取った」という圧倒的な誠実さでした。