なぜ、これほどまでに残酷な誤報が日本中に拡散してしまったのでしょうか。その背景には、行政機関の不用意な情報発信と、メディアの裏付け取材の欠如という二重の過失がありました。
混乱の最中、厚生労働省の発表や福島県災害対策本部のブリーフィングにおいて、「自衛隊が突入した際、医師や看護師はおらず、患者だけが残されていた」という断片的な情報が公表されました。行政側が前後の文脈や事実関係を精査しないまま発表した内容を、大手新聞社やテレビキー局は裏付け取材を行わないまま速報したのです。
「病院関係者が逃走」という刺激的な見出しは、原発事故の恐怖に怯える国民の怒りの矛先となり、病院や医療法人に対する激しい名誉毀損へと発展しました。
その後、日本医師会や有志の調査、ジャーナリストによる現地取材によって事実無根であることが証明されると、福島県知事(当時)が正式に謝罪。厚生労働省も事実誤認を認め、メディア各社も訂正記事や検証記事の掲載に追い込まれました。しかし、一度刷り込まれた偏見や遺族・関係者の受けた精神的苦痛は、数行の訂正記事で拭い去れるものではありませんでした。