あだち充作品の真骨頂は、過剰な言葉を使わずに登場人物の心を通わせる繊細な心理描写にあります。佐々木英明が関わる場面にも、ファンの記憶に深く残る名シーンが数多く存在します。
特に印象深いのは、退部を決意した佐々木が達也に本音を打ち明けるシーンです。「自分にはもう無理だ」と涙をこぼす佐々木に対し、達也は決して引き留めたり責めたりすることなく、彼の苦しみを静かに受け止めました。達也が佐々木の想いも背負ってマウンドに立つ覚悟を固めた瞬間でもあります。
また、過酷な練習を終えて疲労困憊の達也に、佐々木がさりげなく食事を用意して励ます日常シーンも秀逸です。勝負の厳しさを描く『タッチ』の中で、佐々木と達也の間に流れる穏やかな空気感は、張り詰めた物語の清涼飲料水のような温かさを放っていました。