彫刻刀の購入において、一部の保護者が陥りがちな最大の誤解が「子供が使うものだから、あまり鋭利でない(切れすぎない)刃のほうが怪我をしなくて安心ではないか」という思い込みです。しかし、教育現場と刃物職人の双方が一致して指摘するのは、その正反対の現実です。
切れ味の鈍い彫刻刀を使うと、木材の繊維をスムーズに断ち切ることができず、子供は無意識のうちに上半身全体の体重をかけて無理やり刃先を押し込もうとします。このとき、余計な摩擦と反発力が生じ、刃先が意図しない方向に大きくスリップしてしまいます。その延長線上に版木を押さえている反対側の手があるため、結果として深い切り傷を負う重大事故につながるのです。
日本文教出版や光村図書などの教科書副教材でも、「彫刻刀は軽く引く、または押し出すだけで彫れる状態を保つこと」が事故予防の鉄則として解説されています。つまり、研ぎ澄まされた良質な刃物を与えることこそが、最も効果的な安全対策であるといえます。