子どもの成長記録をつける保護者から最も多く寄せられる相談のひとつが、赤ちゃんの歯が生える時期に関する個人差の不安です。厚生労働省の乳幼児身体発育調査および日本小児歯科学会の集計データによると、乳歯の萌出(ほうしゅつ)は平均して生後6ヶ月〜8ヶ月頃に下の前歯(乳中切歯)から始まります。ただし、この数値はあくまで標準偏差の中央値に過ぎません。早い子では生後4ヶ月頃に萌出が確認される一方、生後10ヶ月や1歳を過ぎてからようやく1本目が顔を出すケースも全体の約15%存在します。1歳3ヶ月頃までに最初の歯が生えれば医学的には正常範囲内と診断されるため、月齢の平均値と比較して焦る必要は一切ありません。
歯が生え始める前兆として見逃せないのが、よだれ増加と夜泣きの真相です。「最近急によだれの量が増えてスタイが何枚あっても足りない」「夜中に突然狂ったように泣き叫び、授乳しても落ち着かない」という現象の背景には、専門用語で「萌出期歯肉炎」や「歯ぐずり(Teething)」と呼ばれる生理的プロセスが存在します。
歯冠が歯肉の粘膜を押し上げて破裂する際、歯槽骨と歯肉周辺には軽微な局所性炎症と浮腫(むくみ)が生じます。このとき、赤ちゃんは口の中に持続的な「かゆみ」「熱感」「違和感」を覚えます。乳児はまだ言葉で不快感を表現できないため、唾液を過剰に分泌して炎症を冷却・自浄しようと試み、睡眠が浅くなった拍子に不快感から激しい夜泣きを引き起こすのです。現場の小児科医は「抱っこしても泣き止まない夜泣きの原因が、実は口の中のむずがゆさだったという症例は日常茶飯事である」と指摘しています。