オーストラリア進出を阻む最大の壁として、外食産業の専門家が一様に指摘するのが人件費構造と労働法規の厳格さです。
オーストラリアは世界で最も最低賃金が高い国のひとつであり、2026年時点の法定最低時給は約24〜25豪ドル(日本円換算で約2,400〜2,600円水準)に達しています。さらにオーストラリアの労働法(Fair Work Act)には「ペナルティ・レート(Penalty Rates)」という制度が厳格に定められています。
この制度により、土曜日の労働には基本時給の1.25〜1.5倍、日曜日には1.5〜1.75倍、祝日には2.0〜2.5倍の割増賃金を支払う義務が雇用主に課されます。週末や祝日こそが最大の書き入れ時となる回転寿司ビジネスにおいて、この人件費負担は利益率を根底から圧迫します。
スシローの強みは、IT自動化システムと職人を介さない調理ラインによって実現される「一皿100円台からの薄利多売モデル」です。しかし、オーストラリアでこの人件費構造と店舗家賃を吸収しようとすれば、寿司一皿の最低価格を5豪ドル〜8豪ドル(約500円〜850円)以上に設定せざるを得ません。日本の「安くて旨いスシロー」というブランドアイデンティティを保ったまま現地展開することは、ビジネスモデル上、極めて難易度が高いのです。