「ヤマが動いた」――警察ドラマでおなじみのフレーズだが、警察隠語における「山」は重大事件や未解決の捜査対象を意味する。困難な捜査を一つひとつ積み重ね、高い頂を切り拓く過酷さが、事件そのものの呼称へと重なった。
この言葉の変容は、日常の意外な現場でも起きている。麻雀の卓上では、牌が積まれた壁を「山」と呼び、手元に引き寄せる運命の源泉とする。他方、出版業界に足を踏み入れると、物語の最高潮や積み上がった原稿の締め切り期日を「ヤマ場」と呼ぶ。超えるべき障壁、あるいは命運を握る塊として、この一文字は社会の各所に根を張っている。