世間を震撼させた「大王製紙事件」の発端は、2010年から2011年にかけての期間でした。井川氏は大王製紙の連結子会社7社から、取締役会の承認を得ることなく合計約106億8000万円を個人的に借り入れ、その大半を海外カジノのバカラ賭博に注ぎ込みました。
名門企業のトップがなぜこれほどの狂乱に陥ったのか――その引き金は、シンガポールのマリーナベイ・サンズやマカオのVIPルームで体験した桁外れの勝負でした。最初は数千万円単位の遊びだったものが、負けを取り戻そうとする過程で掛け金が加速度的に跳ね上がり、1回の勝負で数億円が動くバカラの魔力に呑まれていったと明かされています。
この事件の深層には、創業家出身の「絶対的なプレッシャー」と、実父であり当時の最高顧問・井川高雄氏との複雑な確執がありました。幼少期から帝王学を叩き込まれ、社内外で常に結果を求められ続けた孤独なエリートが、誰にも相談できない重圧の逃げ場として選んだのが、勝敗のみが支配するカジノの暗闇でした。その後、特別背任の容疑で東京地検特捜部に逮捕され、最高裁まで争ったものの懲役4年の実刑判決が確定。喜連川社会復帰促進センターに収容されることとなりました。