この別荘を語る上で欠かせない人物が、幕末から明治にかけての日本近代史に決定的な影響を与えたイギリスの外交官、アーネスト・サトウです。自著『一外交官の見た明治維新』でも知られるサトウは、激動の政局を駆け抜ける傍ら、日本の山岳と自然を深く愛した一流の登山家・ナチュラリストでもありました。
彼が英文の旅行案内書『日光案内(A Guide Book to Nikko)』を著したことからも明らかなように、日光の風土に対する理解と愛情は人一倍深いものでした。「故郷である英国・湖水地方の風景を彷彿とさせる」としてサトウが中禅寺湖畔の南岸に個人別荘を建てたのが明治29年(1896年)のことです。この山荘の誕生こそが、奥日光が国際避暑地へと変貌を遂げる決定的な契機となりました。
サトウの滞在以降、イタリアやフランス、ベルギーなど各国の外交官たちが次々と湖畔に別荘を構え、奥日光はさながらヨーロッパの縮図のような社交場を形成します。サトウの手を離れた後も、建物は英国大使館別荘として2008年まで歴代の大使やその家族に愛され続けました。その後、栃木県へ寄贈され、当時の図面や古写真を厳密に検証した上で復元工事を実施。2016年の開館以来、1世紀以上にわたって紡がれてきた英国と日本の友情、そして避暑地文化の記憶を語り継ぐモニュメントとして息づいています。