鰆はブリやスズキと並び、成長に伴って呼び名が変わる代表的な「出世魚」です。縁起の良い魚として祝いの席に用いられてきた背景には、この成長段階ごとの呼称変化があります。
- サゴシ(サゴチ):体長40cm〜50cm程度。青魚特有の斑点模様が鮮明で、身の水分が多くさっぱりした味わい。
- ヤナギ:体長50cm〜60cm程度。成魚への移行期であり、主に関西の市場などで呼ばれる中間名称。
- サワラ(鰆):体長60cm以上(大型の個体は1m・5kg超に成長)。身の締まり、旨味、脂の乗りともに完成された最上級規格。
豊洲市場の鮮魚仲卸関係者は次のように証言します。
「店頭で安価に並ぶサゴシと、1本買いされる60cm超のサワラとでは、同じ魚種でも肉質と市場価値が全く異なります。サゴシは水分が抜けやすく身割れしやすいですが、3kgを超える大型のサワラは包丁を入れた瞬間に刃が脂で白くなるほど。プロの寿司店が求めるのは、言うまでもなく後者の規格です」
とりわけ岡山県を中心とする瀬戸内地域では、「鰆の刺身を食べないと春が始まらない」と断言されるほど鰆への愛着が深く、古くから「鰆の皿舐め(あまりの旨さに皿まで舐めてしまう)」という言葉が語り継がれています。足が非常に速い魚であるため、産地以外で生食される機会は長らく限られていましたが、現代のコールドチェーンの進化により、都市部でもその類まれな旨味を体験できるようになりました。