一般的には「黒のタートルネック」として広く認知されていますが、正確には首元を折り返さない「モックネック(ハイネック)」と呼ばれる仕様でした。首周りの締め付け感を嫌い、かつプレゼンテーション時のマイク装着や身振りのしやすさを計算に入れた、機能性を追求したカッティングです。
ジョブズの要望を受けた三宅一生は、着心地と耐久性を兼ね備えた特注の長袖モックネックを制作しました。素材の手触り、黒の深み、首元の立ち上がり角度に至るまで、両者の完璧主義が注ぎ込まれた一着です。
ウォルター・アイザックソンによる公式伝記の取材時、ジョブズは自宅のクローゼットを開け放ち、棚一面に整然と積み上げられた黒のシャツを見せながらこう語っています。「これが僕の着ている服だ。一生かかっても着切れないほどあるよ」。仕立てられた枚数はおよそ100枚にのぼり、日々の着替えに一切の迷いを持たない環境が物理的に構築されていました。