動物遺伝学の知見によれば、三毛猫が誕生する基本プロセスには「X染色体不活性化(ライオニゼーション)」という精緻な細胞制御が関わっている。メス(XX)の胎児が発育する初期段階で、細胞ごとにどちらか一方のX染色体がランダムに休眠状態に入る。これにより、ある皮膚組織では黒が、別の組織では茶色が表出するモザイク模様が生まれるわけだ。
では、なぜオスにその現象が起きるのか。最大の鍵となるのが、性染色体の数的異常である「XXY」の存在だ。1942年に米国の内分泌学者ハリー・クラインフェルターによって報告された「クラインフェルター症候群」は、人間のみならず猫の世界にも現れる。受精時の染色体不分離によって、Y染色体を持ちながらX染色体を重複して獲得した個体だけが、オスとしての生殖器構造と三毛の毛色を同時に宿すことができる。発生確率は約3万頭に1頭。まさに遺伝学の気まぐれが生んだアートピースといえる。