民俗学の視点から稲荷信仰を観察すると、日本人が動物霊に対して抱いてきた独特の感情が浮き彫りになる。稲荷神社に鎮座する狐たちは神そのものではなく、神の意志を地上に伝える眷属(神の使い)である。
江戸時代、急速に都市化が進む中で稲荷信仰は爆発的なブームを巻き起こした。一夜にして大金を手にする商人が現れる一方、破滅する者も出る。そうした激しい浮き沈みを目の当たりにした庶民は、「狐のご利益で急上昇した者は、粗相をすれば狐に祟られて没落する」という因果応報のストーリーを作り上げた。民衆の間に根づいた狐憑き信仰や怪異談が、現代まで続く「稲荷=怖い」というイメージの原型を形成したのだ。