物語の中盤、観客と瀧を同時に襲う戦慄の展開が「3年の時間軸の乖離」です。瀧が生きていたのは2016年の現代であり、三葉が生きていたのは彗星が落下する2013年でした。この君の名はの時間軸のズレの解説において、新海監督は緻密極まりない伏線を序盤から張り巡らせていました。
初見では見落としがちな君の名はの伏線回収まとめとして、以下の3つの決定的な描写が挙げられます。
第一に、スマートフォンと暦のズレです。二人は入れ替わり時にお互いの端末へ日記を残していましたが、画面に表示される曜日は2013年と2016年で完全に一致しません。しかし、人間は夢から覚めた直後の曖昧な意識状態において、日付の数字は認識しても「西暦」や「曜日との整合性」を疑うことは極めて稀です。作中で二人が「記憶が目覚めとともに急速に薄れていく」と証言していた通り、超自然的な現象に適応するための心理的防衛反応が働いていました。
第二に、東京の都市景観の違いです。2013年の三葉が瀧を探して上京した際、建設中だったランドマークの形状や街の看板は、2016年の瀧の日常とは微妙に異なっていました。三葉が中央線の車内で瀧に出会った時、当時の瀧は中学生であり、まだ三葉のことを全く知りませんでした。三葉が手渡した「赤紫の組紐」を、瀧は素性も知らぬまま3年間にわたってミサンガのように腕に巻き続けていたという事実こそ、最大の伏線回収と言えます。
第三に、御神体と口噛み酒の役割です。時間の境界線(黄昏時=カタワレ時)においてのみ、三年の断絶を超えて二人は直接対面を果たしました。現世と隠世(かくりよ)の境界である御神体に奉納された口噛み酒は「三葉の半分そのもの」であり、瀧がそれを体内に取り込むことで、時系列を遡って過去の三葉の身体に再ダイブすることが可能となったのです。