ネットの掲示板やSNSでは「明晰夢をやりすぎると精神が崩壊する」「現実に戻れなくなる」といった怪談めいた言説が飛び交うが、明晰夢の危険性と理由を客観的に精査すると、オカルトではなく精神生理学的なトレードオフが浮かび上がる。
最大の実害として挙げられるのが、明晰夢による脳疲労の真相だ。本来、睡眠は昼間に酷使した大脳皮質を休止させ、老廃物を排出するグリファティックシステムの稼働時間である。しかし明晰夢中は、前頭前野が活発にエネルギーを消費し、脳温も上昇した状態が続く。睡眠ポリグラフ検査を受けた被験者たちの主観的報告でも、明晰夢を見た朝は「眠った気がしない」「頭の芯が重い」といった睡眠深度の不足や慢性疲労を訴える割合が有意に高い。
さらに見過ごせないのが、夢の想起力を鍛える定番メソッドである夢日記の精神的デメリットだ。起床直後に夢の内容を詳細に書き留める作業を数ヶ月にわたり執拗に続けると、夢の記憶と現実の記憶が同等の鮮明度で脳の海馬にアーカイブされていく。その結果、以下のような心理的弊害が臨床現場から報告されている。
- 解離症状と離人感:起きている日常の中で「これもまた夢ではないか?」という疑念が払拭できなくなり、現実感が希薄化する。
- 偽記憶の形成:「夢の中で友人と交わした約束」を現実の出来事と混同し、対人トラブルを引き起こす。
- 悪夢の解像度上昇:夢を鮮明に思い出す回路が強化された結果、偶発的に発生した悪夢やトラウマ体験の細部まで克明に記憶へ焼き付いてしまう。
元々ストレスを抱えている人や境界性パーソナリティ傾向のある人が無秩序に夢日記にのめり込むのは極めて危険であり、精神衛生の観点から明確なブレーキが必要となる。