おとり物件とは、実際には取引する意思がない、あるいは取引することができないにもかかわらず、入居希望者を引き寄せるためにポータルサイトや店頭に掲載される広告物件を指します。業界の内部構造を紐解くと、このおとり広告は大きく3つの類型に分類されます。
第1に「完全な架空物件」です。実在しない住所や別の建物の室内写真を合成し、相場を2〜3割下回る破格の家賃設定で掲載する手法です。2026年現在では、AI画像生成技術を悪用して実在のマンションの間取り図に極めてリアルなCG家具を配置した偽装画像が出回るなど、デジタル技術を逆手に取った新手口も確認されています。
第2に「実在するが取引する意思がない物件」です。大家が募集を取り下げていたり、事務所使用に限定されていたりする部屋を、あたかも一般居住用として募集中であるかのように見せかけます。
第3に、最も件数が多くグレーゾーンを装いやすい「すでに成約済みの物件の意図的放置」です。数週間から数ヶ月前に契約が成立しているにもかかわらず、自社サイトや大手ポータルサイトへの掲載を継続し、反響があった時点で「昨日埋まったばかり」と言い訳を用意して来店を促します。
法的な観点から言えば、おとり広告の違法性は極めて明白です。宅地建物取引業法第32条(誇大広告等の禁止)において、著しく事実に相違する表示や実際のものより優良であると誤認させる広告は明確に禁止されています。これに違反した場合、宅地建物取引業法違反として国土交通省や各都道府県から業務停止処分や免許取消処分といった厳しい行政処分の対象となります。さらに、消費者庁が所管する不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法第5条第3号)に基づく「おとり広告に関する表示」の指定にも抵触し、違反業者には再発防止を命じる措置命令や課徴金納付命令が下されます。