花が持つ記号的な意味合いは、時代のポップカルチャーや映像作品によっても刻々と上書きされてきた。日本においてその香りとドラマ性を決定づけた金字塔といえば、筒井康隆による傑作SF小説『時をかける少女』だろう。理科実験室で漂う理知的な甘い香りが時空を超えるトリガーとなる演出は、日本人にとってのハーブ像に決定的な影響を与えた。往年のファンはもちろん、現代の若い世代もNetflixやAmazon Prime Videoなどの動画配信サービスを通じて様々な映像化作品に触れ、その幻想的な世界観を追体験し続けている。
一方、海外に目を向ければ、イギリス映画『ラベンダーの咲く庭で』が描いた静謐で美しい余韻が思い浮かぶ。海岸沿いの厳しい風に耐えて咲く花々が、老姉妹の静寂な日常と密やかな恋心を鮮烈に浮き彫りにした。フィクションの中で描かれる芳香は、常に誰かの胸の内に秘められた言葉にならない想いを雄弁に語りかけている。