「川や海が汚れているのは、企業の利益優先による垂れ流しのせいだ」という言説は、もはや半世紀前の古い認識に過ぎません。1970年代以降、日本は深刻な公害問題を契機に水質汚濁防止法をはじめとする法制度を矢継ぎ早に整備しました。同法に基づく工場排水規制基準は段階的に厳格化され、違反事業者への直罰規定や自治体による厳しい「上乗せ排水基準」が機能した結果、産業排水に由来する重金属や有害化学物質の排出量は劇的に減少しました。
その一方で、人口集中と生活様式の変化によって浮上したのが家庭からの排水です。環境省の負荷量調査や各都道府県の環境白書によると、公共用水域に流れ込む有機物負荷において、生活排水の割合は約70%に達しています。残り30%を工場・事業場排水や農業排水などが分け合っている構図です。つまり、現代の水質汚染は「特定の加害者」が存在する産業公害ではなく、「国民全員が少しずつ加害者になる」構造的汚濁へと変貌を遂げています。
生活排水の内訳をさらに細分化すると、トイレのし尿が約3割であるのに対し、台所、風呂、洗濯などの「生活雑排水」が約7割を占めます。なかでも圧倒的な汚濁負荷を叩き出すのが台所からの排水です。調理くず、ラーメンの残り汁、使用済みの食用油、マヨネーズなどの調味料には極めて高濃度の有機物が凝縮されており、これらが下水処理施設を通らずに流出した場合、瞬く間に自然水域の浄化能力をパンクさせてしまいます。