幼い頃の稽古場には、張り詰めた空気と白粉の香りが漂っていた。父である二代目松本白鸚(当時・九代目松本幸四郎)の妥協なき芸道への姿勢を間近で見つめながら育った兄妹。兄の十代目松本幸四郎(当時・市川染五郎)が歌舞伎の世界で厳格な型を身体に叩き込む一方、妹の松たか子もまた、劇場の楽屋という非日常の空間を日常として呼吸していた。
名門・高麗屋の看板は、時に重すぎる枷となる。しかし二人は、その伝統を誇りとしつつも、安住の地に留まることを選ばなかった。父が『ラ・マンチャの男』で見せつけた不屈のエンターテイナー精神は、兄の歌舞伎への革新的アプローチ、そして妹のミュージカルやストレートプレイでの鮮烈な躍進へと、形を変えてしっかりと受け継がれている。