生きて戻る佐々木を迎えたのは、賞賛ではなく冷酷な脅迫と隔離だった。大日本帝国陸軍第4航空軍の司令官・富永恭次中将をはじめとする司令部は、公式発表と矛盾する佐々木の存在を抹殺しようと躍起になった。「なぜ死ななかった」「次は絶対に突入しろ」と怒号を浴びせ、軟禁状態に置いた上で連日のように再出撃を命じた。
佐々木が撃墜されず、病にも倒れず生き残ると、最終的に軍は彼を激戦地カガヤンの地上戦へと放逐した。マラリアと飢餓が蔓延するジャングルの中で、名誉ある戦死ではなく「自然淘汰」による口封じを図ったのである。個人の命を軽視し、面子と組織防衛のために戦果の偽装と兵の死を強制する。佐々木を取り巻いた環境は、大日本帝国陸軍という巨大組織が抱えていた構造的腐敗を如実に映し出していた。