なぜ馬肉が「桜」と呼ばれるようになったのか。その起源には諸説が存在するが、最も有力とされるのは江戸時代における幕府の厳しい肉食禁止令に由来する説だ。当時、四足歩行の動物を食べることは表向き禁じられていたため、人々は「牡丹(猪)」や「山鯨(鯨)」といった隠語を使い、目を盗んで食を楽しんでいた。その中で馬肉に与えられた名こそが「桜肉」だったのだ。
また、肥後熊本藩の初代藩主である加藤清正が朝鮮出兵の折、糧食が尽きた際に陣中馬を食したことが馬肉食の始まりとする伝承も根強く残る。切り立ての肉片が空気に触れて見事な桜色に発色する視覚的変化や、桜の花が咲く春先に脂が乗って最も美味しくなる季節性も合わさり、この美しい呼称は時代を超えて日本人の粋な美意識とともに受け継がれてきた。