メガヒットは時にアーティストの人生を狂わせる。『およげ!たいやきくん』の爆発以降、子門真人の生活は一変した。どこへ行っても奇異の目で見られ、自宅の周りには連日パパラッチや取材陣が押し寄せた。プライバシーは完全に崩壊し、街を平穏に歩くことすら許されない日々が続いた。
本人はアニソンや特撮ソング、フォーク、ソウルなどを自在に歌いこなす生粋の実力派シンガーだった。だが、世間が彼に求めたのは「たいやきくんの歌のおじさん」という記号ばかり。アーティストとしての表現欲求と世間のイメージとの埋めがたい溝、そして過熱するメディアスクラムへの精神的疲弊が、彼を音楽界からの完全撤退へと追いやることになる。1990年代初頭、彼はマイクを置き、人知れず静寂の中へと身を引いた。