ダイソンという複雑なキャラクターに圧倒的な説得力を与えたのが、名優ジョー・モートンの緻密な演技力だ。ジェームズ・キャメロン監督はダイソンを描くにあたり、ステレオタイプな狂気の科学者ではなく、知的で誠実、かつ観客が心から共感できる人物像を求めた。モートンはその意図を完璧に汲み取り、科学への情熱、突然のテロに晒された恐怖、そして真実を知った瞬間の戦慄を見事なグラデーションで表現してみせた。
1990年代初頭のハリウッド映画産業において、アフリカ系アメリカ人の俳優が物語の運命を握るトップクラスの知性派キャラクターを演じた意義は極めて大きい。火薬とスタントが炸裂するSFアクション映画でありながら、観客の胸を締め付ける人間ドラマとして成立しているのは、モートンが吹き込んだ生々しい呼吸と感情の揺らぎがあったからに他ならない。