物語のクライマックス、ブーを人間界の元の部屋へ送り届ける別れのシーンは、アニメーション史に残る屈指の号泣シーンとして語り継がれています。
クローゼットのドアを開けてベッドに入ったブーは、サリーが帰ってしまうことをまだ完全に理解していません。自分のお気に入りの人形――『トイ・ストーリー2』のジェシーや『ファインディング・ニモ』のニモのぬいぐるみをサリーに見せようと無邪気に手渡します。しかし、サリーが優しく額にキスをして「さよなら、ブー」と扉を閉めた後、彼女が再びドアを開けると、そこにはただの押し入れが広がっているだけでした。
何度もドアを開け閉めし、「ニャンニャン?」と呟きながら寂しそうに立ち尽くすブーの姿は、観客の胸を激しく締め付けます。なぜこの別れがこれほどまでに大人の涙を誘うのでしょうか。
【プロの結論】愛着形成と心理的バウンダリーから読み解く親子の物語
心理学の観点から分析すると、この映画は「疑似的な親子の愛着形成」と「必然的な自立(子離れ・親離れ)」の過程を見事に描き切っています。
当初は自らの保身と会社の利益のためにブーを追い出そうとしていたサリーが、ブーと過ごすなかで彼女の絶対的な安全基地(アタッチメント対象)となっていきました。しかし、怪物の世界と人間の世界の間には越えてはならない境界線(バウンダリー)が存在します。ブーの健やかな成長のためには、愛しているからこそ手放し、元の居場所へ戻さなければならないという親の葛藤が、サリーの苦渋の決断に凝縮されています。
そしてラストシーン、相棒のマイクが粉砕されたドアの木片を一つひとつ繋ぎ合わせ、修復してくれた扉の前にサリーが立ちます。恐る恐るノブを回し、部屋の中を覗き込んだサリーに対し、画面の外から聴こえる「ニャンニャン!(Kitty!)」というブーの弾んだ声。サリーの顔に広がる至福の笑みとともに暗転するエンディングは、喪失を乗り越えた先にある希望を完璧に表現した演出です。