『今夜はビート・イット』の核心に迫る上で欠かせないのが、英語圏のストリートで使われるスラング「Beat it」の正確なニュアンスの把握です。日常会話における「Beat it」は、「ここから消えろ」「立ち去れ」「ずらかれ」という強い命令形のスラングとして機能します。しかし、マイケル・ジャクソンはこの言葉に二重の視点を込めました。迫り来る敵に対して「失せろ」と威嚇する叫びであると同時に、対立に巻き込まれそうな若者に対して「意地を張らず、今すぐこの場から逃げ出せ」と命じる痛烈な諫言(かんげん)です。
1980年代初頭のアメリカ都市部では、ストリートギャングによる抗争が深刻な社会問題と化していました。「ナメられたら殺す」「引いたらチキン(臆病者)と呼ばれる」という有害な男らしさ(マチズモ)の呪縛が、無数の若者の命を奪っていた時代です。マイケルはその歪んだプライドの連鎖を断ち切るべく、最もアグレッシブなロックサウンドに乗せて、正反対の平和主義を叩き込みました。
Beat It英語歌詞と日本語訳・カタカナ発音ガイド
世界中のファンが口ずさむサビのフレーズを、文脈に即した正確な対訳とリズム重視のカタカナ歌詞で紐解きます。
【サビ(Chorus)の英語歌詞】
Just beat it, beat it, beat it, beat it
No one wants to be defeated
Showin' how funky and strong is your fight
It doesn't matter who's wrong or who's right
Just beat it, beat it, just beat it, beat it
【カタカナ歌詞(歌唱用フロウ)】
ジャス ビーリッ、ビーリッ、ビーリッ、ビーリッ
ノーワン ウォンツ トゥー ビー ディフィーティッド
ショーイン ハウ ファンキー アン ストロング イズ ユア ファイト
イッ ダズント マラー フーズ ロング オア フーズ ライト
ジャス ビーリッ、ビーリッ、ジャス ビーリッ、ビーリッ
【日本語歌詞対訳と真意】
とにかくずらかるんだ、逃げろ、失せろ、立ち去れ
誰だって負け犬になんてなりたくはない
お前の喧嘩がどれほど凄腕で、どれだけ強かろうが見せつけてどうする?
どっちが間違っていて、どっちが正しいかなんて関係ない
命を捨てる前に、とにかく逃げろ
Aメロでは「奴らはお前を狙っている」「男を見せてみろと煽ってくる」という緊迫した状況が生々しく描写されます。ナイフを突きつけられた現場で、愚鈍なプライドに囚われて命を落とす行為を、マイケルは「男らしさでも何でもない」と一蹴しました。「生きて家に帰ることこそが真の強さである」という命題は、暴力が日常茶飯事だったゲットーの若者たちに対する、切実で慈愛に満ちた救済の叫びでした。