老舗の暖簾を守り抜く背景には、徹底した手仕事へのこだわりと、絶えざる変革の歴史がある。創業者の初代・槌谷九兵衛がこの地で菓子作りを始めてから、時代は江戸から明治、大正、昭和、平成、そして令和へと移り変わった。現在、和菓子製造業を取り巻く環境は決して平坦ではない。原材料費の高騰や後継者不足が叫ばれる中、株式会社槌谷は確固たる美学を持って暖簾を守り続けている。
創業270年目を迎えた工房の裏側では、毎朝まだ暗い時間から職人たちが仕込みに入る。機械化による大量生産に頼れば効率は上がるかもしれない。しかし、素材の水分量やその日の気温、湿度に応じた微細な火加減の調整は、熟練の手にしか不可能な領域だ。暖簾を破らず、しかし古臭くならず。この絶妙な均衡を支えているのは、歴代の当主たちが受け継いできた「顧客の心を打つ本物しか作らない」という揺るぎない理念にほかならない。