メガホンを取った福澤克雄監督のキャスティング眼は、常に常識の外側にある。数百人が参加した大規模オーディションの中で、富栄龍太郎(当時の芸名)の存在感は異彩を放っていた。圧倒的な体躯、元力士ならではの重心の低さ、そしてなにより、信じられないほど軽快なバック転や身のこなし。だが、芝居の経験はほぼゼロに等しい。
通常なら脇役のアクション要員として処理されるところだろう。しかし福澤監督は真逆の舵を切った。「喋らせない」という逆転の発想である。台詞を一切削ぎ落とし、感情伝達のすべてをスマートフォンから流れるAI音声に委ねる。しかもその声を担当させたのが、名探偵コナンの灰原哀やエヴァンゲリオンの綾波レイで知られるレジェンド、林原めぐみだ。
120キロを超える筋骨隆々の巨漢が、画面の片隅でスマートフォンを胸に当て、あの上品でどこか冷徹な美声で「野崎さん、ドラムだよ」と語りかける。この凄まじいギャップが生み出す違和感こそが、視聴者の脳裏にドラムという存在を焼き付ける起爆剤となった。言葉を奪うことで、キャラクターのアイコン性を限界まで尖らせたのだ。