日本の伝承において、狐は人を化かす怪異であり、同時に稲荷信仰に代表される親しみ深い神の使いでもあった。化けて人里に降りてくるきつねの伝承は数あれど、それを現代の「お茶の間のこたつ」という極めて私的な空間に着地させた点に、日清食品の恐ろしいほどの慧眼がある。
油揚げをひと口かじるたびに、きつねの耳がピクリと揺れる。この直感的な連動が、視聴者の脳裏に「どん兵衛=きつねの女の子」という回路を焼き付けた。言葉で長々と商品の魅力を説くCMが淘汰されていくなかで、五感に直接訴えかけるビジュアルと情緒的な物語構造は、広告というジャンルを軽々と飛び越えてみせた。