名曲の産声は、ひとつの切実なオファーから始まった。2000年、NHKのドキュメンタリー番組『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』を立ち上げたチーフプロデューサー・今井彰氏は、主題歌を依頼するために中島みゆきの元を訪れた。当時、番組側が提示したテーマは明確だった。「戦後日本の奇跡的な復興を支えながら、歴史の表舞台に名を残さずに去っていった名もなき人々へ捧げる鎮魂歌と応援歌を作ってほしい」というものだ。
制作陣の回想や当時の音楽関係者の証言によると、中島みゆきは企画意図を深く静かに受け止め、番組のオープニングとエンディングを担う2曲を同時に書き下ろしたという。こうして生まれたのが、激しい鼓動のように挑戦者たちを鼓舞する『地上の星』であり、その激闘のあとに静謐な余韻を残す『ヘッドライト・テールライト』であった。
特筆すべきは、中島みゆきが「勝利の美酒」ではなく「道半ばの孤独」をエンディングに選んだ点にある。通常、ドキュメンタリー番組の結末には達成感を称える華やかな楽曲が充てられがちだ。しかし彼女が提出したデモテープから流れてきたのは、淡々と夜の闇を進む車列の風景だった。当時の番組関係者は「初めて聴いた瞬間、全員が言葉を失い、鳥肌が立った。成功して終わる物語ではなく、明日も泥臭く生き続ける人間の背中そのものが描かれていたからだ」と述懐している。