故・安倍晋三元首相は、国際政治における個人的な信頼関係の構築において比類なき才能を発揮した。名物となったゴルフ外交と並び、彼がここぞという勝負どころで投入したのが「寿司外交」というカードだった。ホワイトハウスのスタッフが当初懸念を示していたとされる和食での会食を、見事なリーダーシップと柔軟さで実現させた背景には、相手の懐深くに飛び込むという計算し尽くされた戦略があった。
カウンター越しに握りたての鮨を味わいながら交わされた言葉は、極少数の通訳のみを挟んだ濃密なものだった。フォーマルな大宴会場とは異なり、職人の手さばきを目の当たりにしながら食を進める臨場感が、緊迫した交渉の緊張を劇的に和らげた。この親密な空間作りこそが、複雑に絡み合う二国間懸案を突破する最大の実効力を持ったのだ。