インターネット上の感想やレビューでは、しばしば「単なる言葉遊びのギミック小説」「ルール縛りの技術自慢」と誤認されるケースが見受けられます。しかし、これは作品の真価を見誤った表面的な解釈に過ぎません。
筒井康隆自身が当時のインタビューやエッセイで明かしている通り、執筆当時の著者は広辞苑やシソーラス(類語辞典)を何冊も机上に積み上げ、使えない文字を誤って打鍵しないよう指先を震わせながら執筆していました。もし1文字でも禁じられた文字が混入すれば作品そのものが破綻するため、徹夜の推敲が繰り返されたといいます。
本作の神髄は、技巧の誇示ではなく「失われていく言葉を通じて、逆に日常の言葉の豊かさと世界の輪郭を浮き彫りにする」点にあります。言葉を失って初めて、私たちが普段どれほど言葉によって他者や愛、自己を定義していたのかを痛感させられる構成になっているのです。