北杜夫の著作は、人間の実存的な孤独に迫る重厚な「純文学」と、肩の力を抜いて笑える「マンボウ・エッセイ」という極端な二面性を持っています。これから北杜夫文学に触れる読者に向けて、時代を超えて読み継がれる代表作を厳選して紹介します。
1位:『楡家の人びと』(にれけのひとびと)
毎日出版文化賞を受賞した、北杜夫の最高傑作とされる長編小説です。自身の生家である青山脳病院と斎藤一族をモデルに、大正から昭和の敗戦に至る激動の日本社会と、巨大精神病院の繁栄・崩壊を圧倒的なスケールとユーモア、哀愁を込めて描き切りました。「日本の『ブッデンブローク家の人びと』」とトーマス・マンの傑作になぞらえて絶賛された、日本近代文学の最高峰です。
2位:『夜と霧の隅で』
1960年に第43回芥川賞を受賞した記念碑的傑作。第二次世界大戦下のナチス・ドイツにおいて、精神病患者の強制安楽死政策(T4作戦)が極秘裏に進められる中、患者たちの命を守るために自らの命を懸けて苦闘する精神科医たちの姿を描きました。精神医療の現場を知る医師ならではの冷徹なリアリズムと、ヒューマニズムが交錯する不朽の名作です。
3位:『どくとるマンボウ航海記』
日本中に「マンボウ旋風」を巻き起こした紀行エッセイの金字塔。船酔いに苦しみ、異国の港町で珍騒動を巻き起こす自虐的で知的な語り口は、半世紀以上が経過した現在読んでも一切の古さを感じさせません。読書初心者にも最初の一冊として強く支持されています。
4位:『幽霊』
北杜夫が青春期の魂を注ぎ込んで執筆した処女長編小説。美しい信州の風景を舞台に、少年の透明な哀愁と死の影を詩的な文体で紡ぎ出しています。のちに三島由紀夫ら文壇の重鎮たちからも激賞された、みずみずしい感性に満ちた一作です。