ホラー映画のモチーフにされがちな「髪の毛」ですが、鞍馬寺においてこれは呪術的な意味を持ちません。それどころか、極めて純粋で尊い信仰行為です。
古来、髪の毛は「人の生命力そのもの」であり、「本人の分身」と考えられてきました。鞍馬寺が掲げる「尊天信仰」では、自分自身の命や自我を尊天(宇宙の真理)に捧げ、自己の浄化と不滅の加護を祈る儀式として「清浄髪奉納(せいじょうはつほうのう)」が行われています。
「己の分身である髪を切り、神仏に預ける。それは現世の執着を捨て、宇宙の生命エネルギーと一体化するための究極の誓いである。」
参拝者は自らの髪の一部を切除し、専用の小壺に納めて奉納します。地下霊殿に並ぶ無数の壺は、怨念の集合体などではありません。平和や自己の救済、家族の幸せを切に願った人々の「祈りの証」なのです。背景にある宗教的文脈を知れば、不気味な光景は一転して神聖な祈祷空間へと姿を変えます。