日本の文化史において、あやめをはじめとするアヤメ科の植物は、文学や美術のインスピレーションの源泉であり続けてきた。平安時代の歌物語である『伊勢物語(杜若の段)』では、三河国八ツ橋の地で「かきつばた」の5文字を各句の頭に据えた折句が詠まれ、都への郷愁と旅情が見事に表現されている。
また、江戸時代の天才浮世絵師・葛飾北斎は、名作『あやめにきりぎりす』をはじめとする作品の中で、鋭い葉と繊細な花弁の対比を力強い構図で描写した。北斎が描いた幾何学的でダイナミックな造形美は、ヨーロッパのジャポニスム運動にも大きな影響を与えている。
さらに、端午の節句において無病息災を願う風習も重要だ。邪気を払う薬草としての「菖蒲(サトイモ科)」と、武を重んじる「尚武」に通じるアヤメ科の質実剛健な佇まいが融合し、日本の武家社会や庶民生活の中で深く愛されてきた歴史がある。