朝ドラのヒロインといえば、数千人が参加する厳しいオーディションを勝ち抜くか、民放ドラマで実績を積んだスター女優が起用されるのが通例です。しかし、『おかえりモネ』における清原果耶の起用は、オーディションを行わない一本釣りの直接オファーでした。この異例の決断を下した制作陣の意図はどこにあったのでしょうか。
当時の制作統括や演出陣が口を揃えて語ったのは、彼女が持つ「言葉を発しない瞬間の圧倒的な情報量」でした。現代劇である『おかえりモネ』は、東日本大震災の当事者でありながら「あの日、自分はその場にいなかった」という内省的な痛みを抱える主人公・百音の心の機微を描く作品でした。明るく元気な従来の朝ドラヒロイン像とは一線を画す、非常に高度な心理描写が求められていたのです。
清原の演技は、感情を大声で叫んだり過剰な身振り手振りでアピールしたりするスタイルとは対極にあります。視線のわずかな揺らぎ、喉元で息を呑む微細な筋肉の動き、沈黙の中に宿る緊張感――そうした「引き算の美学」を10代にして完全に手中に収めていました。制作陣にとって、重層的な痛みを背負いながら静かに未来を見つめる百音役を託せる役者は、彼女以外に存在しなかったと言えます。