この動きを急速に後押ししているのが、急成長を遂げるセキュリティ産業だ。防犯カメラ、生体認証センサー、感情分析ソフトウェアを開発する民間企業にとって、「見えない脅威の可視化」は極めて収益性の高いビジネスモデルとなる。企業や自治体は安全という大義名分のもと、高額な予測システムをこぞって買い求める。
しかし、最新の犯罪心理学が提示する知見は、人間の行動がいかに突発的で環境依存的であるかを示している。完璧な予測など存在しない。安全を極限まで追求するあまり、無害な市民のわずかな挙動の乱れを「異常値」として検知し続けるシステムは、社会全体を過度な緊張と相互不信に陥れる。セキュリティ市場が煽る「予防への渇望」と、学術が警告する「不確実性への受容」との間には、埋めがたい溝が横たわっている。