本作を語る上で欠かせないのが、日活史上最高の黄金コンビと謳われた石原裕次郎と浅丘ルリ子の関係性です。通算40本を超える作品で共演したふたりですが、夜霧の慕情 浅丘ルリ子 共演秘話として伝えられる数々のエピソードには、映画界の神話を超えた生々しい人間味があふれています。
当時のインタビューや後年の自著・回顧録において、浅丘は裕次郎について「映画の中だけでなく、カメラが回っていない現場でも常に自然体の紳士であり、誰に対しても分け隔てのない気配りの人だった」と語っています。極寒の夜間ロケが続いた横浜の波止場では、寒さに震える浅丘の肩へ裕次郎が自らのコートを黙ってかけ、温かい缶コーヒーを手渡したという逸話は日活スタッフの間でも語り草でした。
世間ではしばしば「二人は実生活でも恋人同士だったのではないか」という噂が絶えませんでした。しかし浅丘本人はメディアの取材に対し、次のようなニュアンスでその精神的結びつきを述懐しています。
「裕ちゃんとは恋人という言葉を超えた、戦友であり家族のような絆でした。お互いに何も言わなくても、視線を合わせただけで何を考えているかすべて分かってしまう。だからこそ、画面の中で嘘のない本物の愛を演じることができたのです」
恋愛感情という矮小な枠に閉じ込められない、プロフェッショナル同士の崇高な信頼関係。公私の境界線を健全に保ちながらも、魂のレベルで深く共鳴し合っていたからこそ、スクリーンに映る二人の逢瀬には息をのむような緊迫感と純度の高い美しさが宿ったと言えます。