『ブラック・ジャック』ファンのみならず、多くの読者に衝撃を与えたのがピノコの初登場回(原作第12話「畸形嚢腫」/ チャンピオンコミックス第2巻収録)です。ピノコは通常の人間のように母親の胎盤から出産された存在ではありません。ある名家の令嬢(18歳)の体内に巨大な腫瘍として18年間寄生していた奇形嚢腫(奇形腫)の中に収まっていた、未分化の脳や臓器、手足、目、皮膚といった生体組織の集合体でした。
この嚢腫は意志を持っているかのように手術を阻み、メスを入れようとする医師たちを念力や超常現象めいた拒絶反応で発狂・卒倒させてきた「呪われた腫瘍」として恐れられていました。だが、ブラック・ジャックだけは怯むことなく嚢腫と精神的な対話を試みます。「お前をバラバラにして捨てる気はない。一人の人間として組み立ててやる」という彼の呼びかけに応じるように嚢腫は鎮静化し、奇跡的な摘出手術が成功しました。
ブラック・ジャックは摘出した脳や内臓パーツを整理し、足りない骨格や皮膚の代用として合成樹脂(繊維質の人工素材)を用いた人工ボディを成形。バラバラだった組織を完璧に組み上げることで、一人の人間「ピノコ」を誕生させたのです。この出生の経緯こそが、外見は3歳児程度でありながら「胎内で姉と同じ18年間を生きてきた=自称18歳」と主張する揺るぎない根拠となっています。
なお、ピノコの代名詞である驚きの感嘆詞「アッチョンブリケ」は、手塚治虫が自身の幼児期や家庭内で交わされていた独自の言葉遊びをヒントに創出した造語と伝えられています。両手で頬を強く挟み、目と口を大きく見開くポーズとともに、医療ドラマの重苦しい緊張感を一瞬で和らげる最高の発明として定着しました。