残り時間はわずか数秒だった。相手にリードを許し、万事休すかと思われたその瞬間、彼女の身体が反射的に動いた。2016年リオデジャネイロ五輪の決勝戦。あの伝説的なタックルと劇的な逆転勝利は、今なお日本のスポーツ史に鮮烈な記憶として刻まれている。
富山県高岡市で生まれ、幼少期から父の指導のもとでレスリングの基礎を叩き込まれた。至学館大学へと進み、吉田沙保里や伊調馨といった絶対的な女王たちの背中を追い続けた日々。プレッシャーに押し潰されそうな夜も、幾度となく経験した重傷の苦しみも、すべてはあの数分間のためにあった。土壇場で見せる底知れぬ集中力と執念。それこそが、彼女を世界の頂点へと押し上げた最大の武器だったのだ。