SNSや動画サイトで長年拡散されている「生活の知恵」の中には、鏡の光学特性を無視した極めて危険な方法が混ざっています。特に現場の清掃業者やガラス職人が警鐘を鳴らし続けているのが、「鏡の傷を歯磨き粉で磨く」という手法です。
一般的な市販の歯磨き粉に含まれる清掃剤(無水ケイ酸、炭酸カルシウムなど)は、粒子サイズが不均一で粗く、モース硬度もガラスに対して適切に調整されていません。微細な傷を埋めるどころか、擦った箇所全体に無数の微細傷(サンドブラスト状態)を新たに刻み込み、光が乱反射して白くぼやけた曇りシミを作ってしまいます。
また、重曹ペーストや100均ショップで手に入る粗悪な鏡の傷研磨剤(100均コンパウンド)も同様のリスクを孕んでいます。粒子が大きすぎる研磨剤で力を入れて擦ると、傷を消すどころか「取り返しのつかないスリガラス化」を招くのがオチです。
さらに、浴室の鏡掃除で多発しているのが「鏡の傷とダイヤモンドパッド」の誤用事故です。本来、ダイヤモンドパッドは鏡の表面に固着した強固なウロコ水垢(シリカスケール)を削り落とすための道具であり、傷消し用ではありません。乾いた状態や強い筆圧で使用すると、ダイヤモンド砥粒がガラス面をえぐり、無数の円状傷を残してしまいます。特に、防曇コートや撥水加工が施された浴室鏡に使用すると、コーティング膜がまだらに削れ、修復不可能な状態に陥ります。