荒涼とした日本海の水平線を一望する崖の上に店を構えるのが、名高いブーランジェリー「エグ・ヴィヴ(Aigues Vives)」だ。南フランスの小村から名を取ったこの店は、小樽市忍路の豊かな自然とどこか厳格な風景の中に静かに溶け込んでいる。店内に足を踏み入れると、余計な装飾は一切ない。木製のカウンター越しに広がるのは、無骨なまでに力強いパンの山と、奥に鎮座する巨大な窯の気配だけだ。
店主の楠田敏行シェフがこの地を選んだのは、単なる隠れ家としてのロケーションを求めたからではない。パン作りの根源である火、水、小麦、そして発酵に影響を与える空気の循環を極限まで突き詰めた結果としての忍路だった。外界の喧騒から完全に隔絶されたこの場所で、日々ひたすらにパンと向き合う職人の姿がそこにある。