お菓子作り初心者の方が最も陥りやすい落とし穴が、「食品を長持ちさせるなら、とりあえず冷蔵庫に入れておけば安心」という思い込みです。しかし、手作りクッキー冷蔵庫NGの理由には、製菓科学に基づいた明確なメカニズムが存在します。
クッキーの魅力である「サクサクとした軽い歯ごたえ」は、生地中の水分が焼成によって水分含有率約1〜5%程度まで極限に蒸発することで生まれます。ところが冷蔵庫の庫内は、冷気の循環や食品の出し入れに伴い、想像以上に湿度の変動が激しい環境です。クッキーのような極度に乾燥した多孔質(無数の微細な空気穴を持つ)の焼き菓子は、周囲の湿気を強力に吸い寄せる性質を持っています。その結果、冷蔵庫に入れるだけでみるみる大気中の湿分を吸い込み、特徴であるクリスピーな食感が失われてしまうのです。
さらに深刻なのが「臭い移り」と「結露」の問題です。クッキーの主原料であるバターなどの油脂分には、周囲の匂い分子を強力に吸着する性質があります。ラップで包んだ程度では、冷蔵庫内の料理や食材の匂いが油脂に溶け込み、バター特有の上品な甘い香りが損なわれます。加えて、冷蔵庫から室温へ取り出した瞬間に温度差で表面に結露(微細な水滴)が発生し、これがデンプンの劣化やカビの発生原因になります。特別な生チョコサンドや生クリームを絞ったタイプを除き、焼き上がったクッキーを冷蔵室に入れるメリットは皆無といえます。