石川由依の演技を語る上で欠かせないのが、幼少期からの過酷な舞台経験に裏打ちされた身体的リアリズムです。6歳で劇団ひまわりに入団し、ミュージカルをはじめとする数多くの舞台で主役を務めてきた経歴は、彼女の声優としての骨格を形成しました。
2007年のテレビアニメ『ヒロイック・エイジ』のディアネイラ役で声優デビューを果たした際、音響監督や演出陣を驚かせたのは、マイク前での「空間把握能力」でした。一般的なアニメ声優が声のイントネーションや誇張表現を武器にする一方、石川は「キャラクターがその場に立っている姿勢や呼吸、肉体の緊張度」を声に変換して演じる手法を採っています。
このアプローチが決定的な結実を見たのが、2013年から足掛け10年にわたり演じ続けた『進撃の巨人』のミカサ・アッカーマンです。公式インタビューや舞台挨拶において石川自身が「ミカサは私の一部であり、彼女の苦しみも愛もすべて自分の中に落とし込んで叫んでいた」と振り返っているように、エレンに対する執着、過酷な戦闘での冷徹さ、そして終盤で見せた断腸の決断は、彼女自身の肉体を削るような真情の発露でした。
さらに、2018年より放送された京都アニメーション制作『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』では、武器として育てられ感情を持たなかった少女が、手紙の代筆(自動手記人形)を通じて「愛してる」の意味を知っていくプロセスを演じ切りました。回を追うごとにわずかずつ揺らぎ、温かみを帯びていく声の微細な変化は、国内外の批評家から「声による奇跡のグラデーション」と絶賛され、第15回声優アワード主演女優賞の獲得へと繋がりました。