日本野球機構(NPB)とMLBの歴史を一本のバットで塗り替えてきた男の幕切れは、あまりにも劇的だった。シアトル・マリナーズのユニフォームを纏い、東京ドームの右翼守備位置からベンチへ戻る際、チームメイト全員がダグアウトから飛び出して抱擁を交わす。その光景は、予定調和の引退試合ではなく、勝負の世界に生きる男たちが捧げた最大級の敬意そのものだった。
45歳という年齢は、過酷なMLBのレギュラーシーズンにおいて常軌を逸した長寿記録だ。年間162試合の移動と連戦、20代の若手が投じる時速160キロ超の剛速球。肉体的な衰えを日々の精緻なルーティンで補い続けたイチローにとっても、打球速度と動体視力の微小なズレは避けられない現実として迫っていた。「後悔などあろうはずがない」という会見でのフレーズは、妥協なく45歳まで走り切った自負があるからこそ吐き出された真実の言葉だった。