猫が移動ルートを厳密に固定する最大の要因は、安全性の確保と縄張り(テリトリー)の維持にあります。猫は単独で狩りを行ってきた歴史から、無用な戦闘や不測の危険を極限まで避ける極めて慎重な習性を持っています。一度「外敵がおらず安全に通過できた」と学習したルートは、命を守るための既定航路として脳内にインプットされます。
動物行動の専門家による分析でも、猫は視覚情報だけでなく、自らの肉球から分泌されるフェロモンや壁に残したスリスリ(摩擦臭)を頼りに歩行空間をマッピングしていることが判明しています。毎日同じ足取りで歩く行為そのものが、前回の安全ログを再確認し、自身の匂いを上書きして他個体へ縄張りを主張するパトロール業務なのです。
見通しが良く逃げ場のない大通りを避け、ブロック塀の天頂部、側溝の縁、住宅同士のわずかな隙間など「身を隠しながら素早く移動できるライン」が選ばれます。結果として、人間からは不自然に見える狭小空間が、猫にとっての幹線道路として機能することになります。