日本国内でも、中野京子氏のベストセラー『怖い絵』シリーズを契機に、名画の背景にある歴史的恐怖を味わう鑑賞スタイルが定着しました。西洋美術展の現場において、魔女を主題とした絵画の前に立つ鑑賞者の反応には、明確な二面性が観察されます。
19世紀末の巨匠ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスが描いた『魔女の呪文(The Magic Circle)』を鑑賞した来館者の証言では、「恐ろしさよりも息をのむ美しさに惹きつけられる」「妖艶でありながら近寄りがたい神聖さを感じる」という声が圧倒的です。砂地に引かれた円形の内側で香を焚く女性の姿は、前世紀までの「邪悪で醜い老婆」というステレオタイプを完全に覆しています。
中世・近世の恐怖の対象だった魔女は、世紀末芸術において「男性社会の抑圧を跳ね返す強い女性像」へと再解釈されました。展示室で人々が目にするのは、恐怖の記録であると同時に、美化された女性の力(エージェンシー)の復権という劇的なパラダイムシフトです。