事件の追及が進むなかで、シーメンス社による無線機の賄賂は「氷山の一角」に過ぎないことが判明します。より大規模な汚職の主役として浮上したのが、イギリスの軍需メーカー「ヴィッカース社」でした。
当時、日本海軍の最新鋭巡洋戦艦として発注されたのが「金剛(こんごう)」です。イギリスのヴィッカース社が受注したこの建造契約の仲介に入っていたのが大手商社の三井物産でした。海軍省内の軍備計画を牛耳っていた海軍兵器総局長・松本和(まつもと かず)少将をはじめとする幹部たちに、三井物産を通じてヴィッカース社から莫大な裏リベートが還流していた実態が暴かれたのです。
リヒテルが暴露したシーメンスの賄賂額が数万円(現在の価値で数億円規模)だったのに対し、ヴィッカース社から流れた裏金は約40万円(現在の価値で数十億円に相当)という桁違いのスケールでした。国の防衛予算が個人の蓄財と企業利権のために食い物にされていた事実は、世論を激怒させるのに十分すぎました。