事件の犠牲となったのは、聖心女子大学2年生だった益野友利香さん(当時20歳)です。彼女は国際的な視野を広げるため、世界最大規模の学生組織「アイセック(AIESEC)」が仲介する海外インターンシッププログラムに参加し、ルーマニア西部の都市クラヨヴァで子どもたちに日本語を教えるボランティア活動に赴く途上でした。
2012年8月15日午後8時すぎ、彼女を乗せた航空機はルーマニアの玄関口であるブカレスト・アンリ・コアンダ国際空港(通称オトペニ空港)へ着陸しました。しかし、本来空港で待機しているはずだった現地アイセックの出迎え担当者は現場におらず、不慣れな異国の深夜に彼女は孤立する事態に陥ります。
到着ロビーで困惑していた彼女に親しげに近づいたのが、現地の男ニコラエ・ヴラド(Nicolae Vlad・当時26歳)でした。ヴラドは「親切な案内役」を装い、クラヨヴァへ向かうための列車が出るブカレスト北駅までの移動をアシストする素振りを見せながら、空港外に待機させていた違法な白タク(非正規タクシー)へと彼女を巧みに誘導しました。
空港の監視カメラには、大きなスーツケースを持つ彼女の荷物をヴラドが運び、並んでタクシーに乗り込む姿が記録されていました。しかし、車が向かった先は駅ではなく、空港からほど近いブカレスト郊外コルベアンカ(Corbeanca)の鬱蒼とした森林地帯でした。タクシーを下車させられた彼女は暗闇の森の中へ引きずり込まれ、性的暴行を受けた末に首を絞められて窒息死させられたのです。
犯行後、ヴラドは被害者の所持金、携帯電話、デジタルカメラ、クレジットカードなどの金品を強奪して現場から逃走しました。8月17日、散歩中の地元住民によって無残に遺棄された遺体が発見され、現地の警察当局と日本大使館を通じて世界中に悲報が打電されることとなりました。