メガホンをとったのは、圧倒的な映像美と激しいドラマ描写で知られる名匠・五社英雄監督。現場には常に目に見えない緊張感が漂っていた。妥協を一切許さない演出スタイルのもと、演技者たちの熱量は頂点に達していたという。
撮影現場での知られざる裏話も今なお語り草だ。岩下志麻は極道の姐御としての立ち振る舞いを身につけるため、着物の着こなしから煙草の扱い、声のトーンに至るまで徹底的な役作りを敢行した。一歩足を踏み出すだけで空気が凍りつくような存在感は、厳しい演技指導と不退転の覚悟が生み出した奇跡といえる。
特に有名なお辞儀のシーンや、着物の裾を捌きながら相手を静かに威圧するカットでは、五社監督ならではの意図的な照明と構図が冴え渡った。妖艶さと刃のような鋭さが同居する「狂気の美」は、こうしてスクリーンに刻み込まれた。